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仙台高等裁判所 昭和32年(ラ)52号 決定

抗告人 佐藤広造 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

抗告理由第一点について。

原裁判所が、「本件農地については県知事の競買適格証明書を有するものに限り競買人となることができる。」と職権で売却条件を変更したことは、記録上明らかである。右適確証明は、その者が農地の所有権を取得する適格を有するとの事実を証明するだけのものであつて、これがために証明された者が競買申出の適格者であるとの一応の効果が生ずるとはいえ、証明自体は行政処分ではなく、いわゆる抗告訴訟の対象となるものではないから、もし右証明が誤つて不適格者に与えられたものであるなら、利害関係人は直ちにこのことを競落の許可についての異議として主張することができるものといわなければならない。もつとも民訴法六七二条三号には「法律上の売却条件に牴触して………」と規定するだけであつて、裁判所が職権で変更した売却条件に触れることを異議の原因として明示してはいないが、同法六六二条の二が裁判所に職権で法定の売却条件を変更することを許している以上、同条によつて変更された売却条件は、やはり法律上の売却条件に準じて取扱うのが相当であり、したがつて競売の申出がこれに触れるときは、競落の許可についての異議の原因となるものと解する。(なお裁判所のいう適格証明書とは真実に合致する証明書のことであつて、証明書さえあれば、それが真実に反し、不適格者に与えられたものであつても、それで足りるという趣旨でないことは明らかである。)そうすると、変更された売却条件に触れることが、同法六八一条二項の規定によつて競落許可決定に対する抗告理由となることもおのずから明らかである。本件抗告理由は、本件競買申出人井上栄作、木村金六の両人が競売機関に提出した競買適格証明書は適格を有しない同人らに与えられたものであるというのであるが、右事実を認め得る資料がない。また、かりに、井上栄作が所論のように小作主事に贈賄して右証明書を得たものであるとしても、右事実は、同人が適格者である限り、本件競落許可決定になんらの影響をも及ぼすものではないから、論旨は理由がない。(記録によると右両名は本件農地の所有権取得について、昭和三二年六月二〇日山形県知事の許可を得たことが認められるから、前記適格証明書も真実を証明したものと認められる。)

抗告理由第二点について。

抗告人は、また本件競売は競買価額を申し出るべき催告後満一時間を過ぎて終局すべき規定が遵守されていないというけれども、本件記録中の昭和三二年四月二三日附競売調書によると、原裁判所執行吏鈴木勇太郎は、同日午前九時の競売期日において、同日午前九時に競買価額の申出を催告し、同日午前一〇時四〇分に競売の終局を告知したことが明らかであるから、所論のような違法はない。

以上の次第で本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 沼尻芳孝 羽染徳次)

抗告の趣旨

原決定を取消し、本件競落は許さない。との裁判を求める。

抗告の理由

一、本件競買申出人井上栄作及び木村金六は、本件不動産につき売買契約を取結び若くはこれを取得する能力がない。

即ち、本件競売の目的物はいずれも農地であつて、農地法の規定に従つてこれが競買人は同法にいわゆる競買適格を有することを必要とし、競買に当り競売機関に対し、この旨を証明しなければならない。

しかるに、前記競買人らはいずれも競買適格を有しない者である。同人らはいずれも本件競売機関に対し、その適格を証明する書面を提出しているけれども、同書面は何ら事実に添つたものでなく、全く虚構の書面である。殊に井上栄作の如きは其所管上山市宮生農業会の審査の結果その不適格なることを決定せられたるに、南村山地方事務所小作主事武田実と語らい、これに多額の金員、酒食等を贈賄し、武田をして涜職による事実相違の競買適格証を発行せしめ、これを執行機関に示し、以つて本件競買を敢行したものである。

尚右涜職については抗告人広造において告発し、目下山形地方検察庁において捜査中である。

二、本件競売は競売価額を申出づべき催告後満一時間を過ぎて終局すべき規定が遵守されていない。

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